遺産分割は、いつまでにやれば良いですか。
2024/9/1
遺産分割は、相続財産について、相続人が協議等により誰がどの財産を相続するかを決めることです。この遺産分割が行われない限り、いつまでも亡くなった人(「被相続人」といいます。)の財産は、そのままの名義で存在し続け、被相続人の名義の財産が存在し続ける限り、遺産分割はいつでも行うことができます。
ただし、ここで注意しなければならないのが、令和5年4月1日から施行された令和3年の民法改正で加わったルールがあることです。
そのルールとは、被相続人が死亡したときから10年以内に遺産分割の手続を行わないと、被相続人が生きている間に、相続人に渡した財産が、遺産分割で考慮されなくなるというものです。しかも、このルールは、民法改正前の相続も対象であり、被相続人から生前何ももらっていない相続人としては、速やかに遺産分割を行う必要があります。
なお、このルールは、上記の施行日から5年経過するまでに家庭裁判所に遺産分割請求をすれば適用されないという経過措置がありますので、現在、相続の仕方に争いがあり時間が経っている場合は、速やかに裁判所に遺産分割請求をすることが重要です。
隣の土地から、枝が越境してきて困っています。
前回は放置された土地について、所有者不明土地管理制度を利用することを紹介しましたが、放置された土地に関する困り事として、隣の土地に生える樹木が成長し、越境してくる枝に迷惑する事があるかと思います。
隣の土地の樹木から越境する枝がある場合、従来の民法では、その樹木の所有者に対して枝を切るように要求することは出来ましたが、越境された側の土地の所有者が、枝を切ることは出来ませんでした。
その為、放置された土地の樹木の場合、所有者がどこの誰かが分からない場合や、相続人が存在しない場合には、従来の民法では速やかな対応が困難でした。
しかし、令和3年の民法改正により、令和5年4月1日以降からは、①枝を切除するよう催告したが、樹木の所有者が相当期間内に切除しないとき、②樹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき、③急迫の事情があるときのいずれかであれば、越境された土地の所有者が、枝を自ら切ることができることとなりました。
これにより自ら枝を切るなどの対応ができるので、越境した枝に困った際は、適切な手順を経て対応いただければと思います。
隣の土地が、相続人がいなくて放置されています。
これまで相続登記の義務化について紹介しましたが、相続が発生した際に誰もが相続するとは限りません。中には不動産の管理を拒否して相続放棄をする人もいらっしゃいます。
このような相続放棄の結果、相続人のいない放置された土地が発生し、残された土地には草木が生い茂り、近隣の住人が困ってしまう事態が発生することがあります。
また、放置された土地について、近隣の住人としては、土地を手に入れて駐車場にしたいと考えたとしても、相続人がいない為に、そのままでは土地を買うことも出来ません。
このように問題が生じてしまう放置された土地に対しては、これまでは相続財産管理人を選任して不動産の管理を行うという対応方法もありましたが、これに加え、令和5年4月1日から、所有者不明土地管理制度が始まっています
この所有者不明土地管理制度は、民間の購入希望者であっても土地の購入計画に具体性がある等の一定の事由が備われば、制度の申立が認められ得るとされており、これまでよりも放置された土地に対する対応の選択肢が広がっています。
このような土地にお困りの際は、弁護士等の法律家にご相談下さい。
登記手続を弁護士に依頼することは出来ますか。
前回、相続登記の義務化について御紹介しました。このような関係で最近お問い合わせを受ける質問に、「弁護士に登記手続の依頼をすることは出来ますか。」というものがあります。
弁護士は、法律の専門家として登記手続も含め法律事務全般を代理することが可能であり、ご依頼があれば登記手続にも対応することが出来ます。
ただ、登記手続を中心的な業務として行っているのは司法書士の先生方であり、弁護士は登記手続を行わず、司法書士の先生方に登記手続をお任せすることが多いと思われます。当事務所でも、登記手続のみの依頼については司法書士の先生方を御紹介させていただいています。
このように登記手続だけであれば、司法書士に依頼することが出来ますが、登記に関して遺産分割争いが生じ、裁判所での調停手続が必要な場合は、司法書士では代理人としては活動できないことから、弁護士が対応することとなります。
その為、登記に関する問題といっても、特に紛争がない場合は、司法書士に相談いただき、何かしらの争いがある場合は、弁護士に相談する等、状況に応じて相談先を使い分けていただけるとよいと思われます。
相続登記の義務化とはなんですか。
近年の法律改正で、令和6年4月1日から、相続の際の登記が義務化されました。
そもそも登記とは、不動産等の権利を確実にするために公式の帳簿(登記簿)に記載することであり、不動産を購入したときには、登記をしないと自身が所有者であることを他の人に主張することが出来なくなります。
その為、不動産の権利を取得した人は、自身の権利を守るために積極的に登記をするところであり、親等が亡くなった際の相続登記も、相続した権利を守るために、通常は自ら登記を行うものです。
しかし、遺産は相続しても、不動産としての価値が乏しかったり、相続人同士で話し合いができなかったり等の理由で、登記を行わない場合も多く、以前は大昔の人の名義の登記を放置しても問題とはされませんでした。
ところが、放置等の結果、所有者不明土地が増加したこともあり、法律を改正し、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に、相続登記をすることが法律上の義務となりました。これは令和6年4月1日以降の相続だけでなく、それ以前の相続も対象ですので、これまで相続登記をしていない場合は、速やかな対応が必要です。
知人の立候補者への投票をお願いするのはダメですか。
前回に続き選挙に関する法律知識を紹介したいと思います。
選挙の投票日が近づくにつれて、選挙に立候補する人だけでなく、その周りで応援する人もまた、当選を目指して周囲に様々な呼びかけを行いたくなるかと思います。
ここで気を付けなければならないのが、特定の候補者への投票依頼といった選挙運動は、公職選挙法で、選挙運動期間以外は行ってはならないと定められていることです。しかも、選挙運動期間は、告示日に立候補の届出が受理された時から、投票日の前日の24時までと限られた期間のため、応援しようとするがあまりに、選挙運動期間前に投票依頼をしてしまうと、事前運動として処罰の対象となります。
選挙運動は、判例などにより「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」とされますが、後援会活動など、選挙運動には当たらない政治活動も存在します。
その為、投票依頼などの明確な選挙運動は、選挙運動期間を意識して行い、選挙に関わる人は自身の行為が許される政治活動かどうかを注意することが必要です。
議員の立候補者が少ないとどうなりますか。
前回に続き選挙に関する法律知識を紹介したいと思います。
市町村議会の議員の数は、条例で定めることとなっており(地方自治法第91条1項)、各市町村によって議員の数は異なります。郡上市においては、郡上市議会議員定数条例によって、18人とされており、その人数を超える立候補者がいれば、選挙によって18人の議員が選ばれることとなります。
この立候補者については、前回御紹介したように一定の条件を満たせば、誰でも立候補することが出来ます。
しかし、最近は人口減少の影響もあってか、立候補をする人が少なくなっており、中には、立候補者数が定数に達しないまま定数割れとなる自治体も存在します。
立候補者数が、定められた数よりも少ない場合は、選挙とはならず立候補者全員がそのまま議員に選ばれます。
選挙が行われないことで争いなく議員が選ばれる面がありますが、選挙の機能には、複数の候補者間で競争が行われ、選挙権を持つ有権者が、選挙を通じて自分の意思を政治に反映させる事が挙げられます。その為、このような機能が果たされる意味で、選挙が行われることの方が望ましい姿であると評価できます。
議員でないと市長にはなれませんか。
前回に続き選挙に関する法律知識を紹介したいと思います。市政に関する選挙と言えば市議会議員選挙と市長選挙があります。
日本の行政の長である内閣総理大臣については、国会議員の中から選ばれることが憲法に書かれており(67条1項)、国会議員でなければ、内閣総理大臣にはなれません。
では市の行政の長である市長は、市議会議員から選ばれなければならないかというと、そうではありません。市長も市議会議員も住民が直接選ぶことが憲法に書かれています(93条2項)。
つまり、市長は、それまで市議会議員の仕事をしていなくても、一定の条件が満たされれば誰もが立候補することが出来ます。
立候補の条件としては、市長も市議会議員も「日本国民で満25歳以上であること」が条件であり、市議会議員の場合は、「引き続き3ヶ月以上その市区町村に住所のある者」という条件が更に必要です。
その他、立候補には、一定額の供託金が必要で、選挙に関する犯罪により被選挙権が停止されている等の事由があると立候補が出来ません。
これらの条件に問題がなければ、誰でも市長に立候補でき、住民に選ばれたら市長になれます。
政治家は年賀状を出さないのですか。
2023/12/31
前回に続き選挙に関する法律知識を紹介したいと思います。今回は、最近は出す人も少なくなっていますが、年明けに届く年賀状に関する知識です。
年賀状に関しては、公職選挙法では、衆議院議員、参議院議員、地方公共団体の議会の議員及び長の職にある者やその候補者や候補者となろうとする者(以下「政治家」といいます。)は、選挙区内にある者に対して、年賀状を出してはならないという規制があります(147条の2)。
この規制は、年賀状に限らず、寒中見舞状、暑中見舞状等のあいさつ状全般が禁止されており、禁止される期間も、選挙期間等の一定の時期に限ることもなく年間を通して禁止されております。その為、政治家が、自ら選挙区内の人に対して、年賀状等を始め、何らかのあいさつ状を送るようなことはありません。
なお、政治家は、自らあいさつ状を送ることは出来ませんが、受け取った年賀状等のあいさつ状に対して、手書きによる答礼を送ることはできます。
このように政治家の行動には、一般の人とは異なる制約があり、年賀状を出さないことにも理由があることから、周囲においても理解しておくことも重要です。
「一票の格差」ってなんですか。
郡上市では、令和6年4月頃に市長や市議会議員の選挙の実施が予想されます。選挙というと、大切とは分かっていても、難しいと思われる人も多いかもしれません。そこで、選挙に関する法律知識を御紹介したいと思います。
選挙に関するニュースの中で、「一票の格差」に関するものがあります。「一票の格差」とは、衆議院議員選挙のような全国区の選挙でよく問題となりますが、これは例えば人口1万人のA地域と、人口2万人のB地域があり、各地域から1人しか議員が選ばれないような場合に生じる問題です。
一見すると、各地域から議員が選ばれている為、問題ないと思うかもしれません。
ですが、仮にA地域の人が、議員を選びたい時には、5千人以上の仲間を集めれば、選んだ人が当選しますが、B地域に住む人は、8千人の仲間を集めても、1万人以上の仲間を集めたグループの議員が選ばれてしまいます。
これはB地域の人の一票の重み(投票の価値)が、A地域の人よりも軽い事を意味しており、これを「一票の格差」と言います。投票の価値の平等は、最高裁判所でも重要とされ、一票の格差を理由に、選挙の有効性が争われています。